がんとともに生きる人へ、正しい情報と選択肢を。遺贈寄付で支える情報提供/キャンサーネットジャパン
キャンサーネットジャパンは、1991年、まだ日本には紹介されていなかった乳がんの治療法を医療者が患者に伝えるため、米国の患者向けパンフレットを日本語に訳し、配布する活動から始まりました。科学的根拠に基づく「がん医療情報」をはじめ、がんとともに生きる人、そのご家族などが生活に必要とする情報を幅広いテーマで提供しています。患者さんやご家族が何に困っているのか、どうすれば少しでも楽になるか──それを問い続けながら活動を続けてきたという常務理事の古賀真美さんにお話を伺いました。(取材日:2025年1月16日)
古賀 真美さん
白血病を発症した弟のドナーになったことを機に、がん患者支援を開始。2019年より理事として遺贈寄付を担当。2023年に左側、2025年に右側の乳がんの治療をし、現在は服薬しつつ活動中。
___まず、キャンサーネットジャパンの活動内容についてお伺いできますか。
がん医療の情報を正しく、より多くの人に届けていくことが私たちの活動の大きな軸になっています。予防のための啓発や、検診の推進などいろいろな切り口があると思いますが、私たちは、“がんに罹患して困っているご本人やご家族の方に向けて、医療者とともに最新の情報を、分かりやすく届けていく”、というところからぶれずに活動を続けてきました。最新の治療情報を提供することで、その情報に触れた方の選択が変わり、いのちにも直結すると思っているからです。
今後、高齢化が進み、がんだけではなく高血圧や心臓病など合併症を持ちながら治療や暮らしを続けていく人の割合が増えていくと考えられます。私たちは、病気のことだけではなく、暮らしや生きるということにつながる情報発信にこだわり、“知る・学ぶ・集う”の3つをテーマに活動しています。がんだけではなく、トータルに生活も含めて考えていかなければならない時代ですので、その人がその人らしく生きていくための支援になるような情報をこれからもさまざまな形でお届けしていきたいと思っています。
___遺贈寄付に取り組まれたきっかけを教えてください。
遺贈寄付のお申し出をいくつかいただいたタイミングで、受け入れの体制を整えるべく顧問弁護士や顧問税理士に相談をして、徐々に形ができてきました。今はまだ遺言書を一緒にお作りする活動までは至っておりませんが、いわゆる“おひとり様”の方で、がん治療を受けている方も増えていて、「きちんと自分の意思を残しておきたい」という声も当団体に届くようになってきています。
自分の意思を残しておくための遺言書作成や、そのほか具体的にどういった準備が必要なのかなどを伝えるセミナーを今後開催していくことで、そういったご要望にお応えできないかと考えています。
遺言書を書くということは、お墓の問題や自分の“もしも”に備えて、不安を軽くする手立てになるかもしれません。例えば、治療の選択に際して、自分が意思表示できなくなった際どうするかということに備える意識は高まってきています。遺贈寄付という選択もそういった意思決定の延長線上にあり、多くの方が情報として知っておくことも必要なのではないかと考えています。
___取り組まれる中で感じていらっしゃる課題はありますか?
私たちが情報をお届けしている方は、がんの治療中であったり、そのご家族であったりするので、“亡くなった後のこと”を想起させる遺贈寄付に関する発信がお気持ちを傷つけてしまうことにならないだろうかと、ずっと懸念しています。
情報を受け取る局面や、疾患、年齢など、その方の状況によって、受けとめ方も異なるだろうと思いつつ、こちらの不用意な発信で傷つく人がいないように、細心の注意を払っています。
まだまだ手探りの状態ですが、そうした配慮をした上で、がんになってもできるだけ心配しないで過ごしていけるような情報発信プロジェクトにも積極的に取り組んでいきたいと考えています。また、託していただいたご寄付を、そういった活動に活用できるありがたさも同時に感じています。
___印象に残っているケースはありますか。
遺贈寄付ではないのですが、何年か前に地方在住の方から比較的大きな額のご寄付をいただいたことがありました。すぐにお電話でお礼をお伝えするとともに、なぜご寄付をしてくださったのかお尋ねしたところ、自分は携帯電話もパソコンも持っていない中でがんの告知を受けて、治りたいという想いはあるものの、情報を得る術がなく途方にくれていた、と。そんな時に、受診した病院に当団体が作った冊子が置いてあってご覧になられたのだと教えてくださいました。
「手に取って抱えて帰って、何回も読んで。お守りのようにずっと持っていて。そして治療を受けて元気になったんです」、とお話しくださり、私のような人のために使ってほしいと託してくださいました。ありがたく思うと同時に、この大切な想いとお金をどう使っていこうかとこれまで以上に深く考えるきっかけにもなりました。その方とは、今も折々ご連絡を取り合う関係が続いています。
___今後、ご寄付によって実現したい活動はありますか?
患者さんの人生は治療だけで成り立っているわけではなく、生活に関すること、お金に関する制度のことなど、さまざまな情報が必要です。これらの情報をお伝えするためのイベントを開催したいと思っても、なかなか企業などからの寄付は集まりにくい状況です。ある程度まとまった額のご寄付をいただいた際には、そういったイベント開催に使わせていただいています。
昨年は、がんを直接的なテーマとするのではなく、トーク&ヴァイオリンコンサートを開催しました。会場には私たちを応援してくださっている方のほかに、そのヴァイオリニストのファンの方にもたくさんご来場いただきました。アンケートで、約半数の方が当団体のことを知らずに来場してくださったことが分かったのですが、「共感しました」とか「病気のときに、こういう団体が支援してくれているんだということを知りました」などの温かい声をたくさんお寄せいただきました。
同時に、日頃から当団体を応援してくださっている方々にも楽しんでいただける時間となり、こういう機会も大切だと実感しました。遺贈寄付に限らず、さまざまな活動に使わせていただくことのできるご寄付は、本当にありがたいです。
___具体的に計画されている活動はほかにもありますか?
患者さんが実際に治療を受けて気づいたことを発信するためのスキルを高める「がんサバイバースピーキングセミナー」を開催しているのですが、この活動にも使わせていただきたいと考えています。
がんには現在、標準治療のほかに、保険のきかない民間療法も数多く存在しています。なかには、高額なだけで効果のないものもありますが、「高額なものほど効果がある」という思い込みを持つ方もいらっしゃいます。また、治療に関する情報を、患者さん本人ではなく、ご家族や近しい方が入手することも少なくありません。自分自身や、大切な家族を守るためには、正しい情報にアクセスできることが大切になります。
そのために、私たちは実際に治療を受けた患者さん本人が、治療を受けて気づいたこと、知ったことなどを正しく発信していくために必要なスキルを学ぶ「がんサバイバースピーキングセミナー」を開催しています。
全国からエントリーした参加者は、自分の経験に加え、さらに広い視野と知識を持って活躍できるように各分野の専門家のアドバイスを受けることができます。これまでの参加者は、例えば企業で自分の体験談を話したり、がん対策委員として各自治体のがん対策に関わるなど、社会を変えるサバイバーとして活躍しています。セミナーに参加することで仲間ができるなど、参加者自身にも多くのメリットがあることも特徴の一つです。
___最後に遺贈寄付に興味を持っている方へのメッセージをお願いします。
「日本人の2人に1人が一生のうち一度はがんになる」(国立がん研究センターがん情報サービス)、今、私たちは、そんな時代を生きています。一方で、治療も非常に進歩し、がんとともに生きていく人が増えています。がん治療は“情報戦”です。知っているか、知らないかで変わってくることもたくさんあります。
情報はたくさん必要ですし、あればあるだけ選択肢を増やすことができると思っています。ただ、正しい選択をするためには、正しい情報を知り、正しい情報の中から選んでいくことが大切です。そして、家族、医療者、職場とのコミュニケーションを大切に、日々を丁寧に暮らしていく。私たちは、そういうことをトータルに支えたいと思い活動を続けています。
今、多くの方が、身近にがんと向き合う方がいるという経験をされているのではないかと思います。がんのことを身近に感じる場面に出会った際に、ぜひ当団体のことを思い出し、がんと生きる人たちを一緒に支える仲間になっていただけたら嬉しく思います。
皆さまからのご寄付は、がんと向き合う方々やご家族のために、信頼できる情報を届ける活動や、正しい知識を広める啓発活動に活用されています。私たちは、医療者と連携しながら、科学的根拠に基づく情報を発信し、がんに対する誤解や偏見をなくすことを目指しています。
<ご相談~遺贈寄付サポート窓口>
電話番号:070-8519-0336 / 03-5840-6072
受付時間:平日10:00~17:00(年末年始を除く)
遺贈寄付お問い合わせフォーム:https://ws.formzu.net/fgen/S70076148/
・団体名
認定特定非営利活動法人キャンサーネットジャパン
・所在地
東京都文京区湯島1-10-2 御茶ノ水K&Kビル2F
・代表者
理事長 岩瀬 哲
・設立年
1991年
<ミッション>
がん患者が本人の意思に基づき、治療に臨むことができるよう、患者擁護の立場から、科学的根拠に基づくあらゆる情報発信を行うこと。
<ビジョン>
がん体験者・家族・遺族、その支援者、医療者と共に、日本のがん医療を変え、がんになっても生きがいのある社会を実現すること。
<活動内容>
1. ジャパンキャンサーフォーラム
毎夏開催している最も大きなイベント。各種がんの専門医が最新の医療情報やトピックを講演し、その様子をアーカイブ動画として配信。がんを知り、学び、集う機会として毎回好評をいただいております。
2. 冊子「もっと知ってほしいシリーズ」作成・改訂・配布
乳がん、大腸がんなどの疾患別や副作用などのテーマで約40種類を作成。全国のがん拠点病院等へ無償配布。治療ガイドラインの更新に伴い改訂や増刷も行っています。
3. 各種がん啓発セミナー
がん治療は日進月歩。がんの種類は多く、それぞれの病期や患者の年齢や既往症などにより、治療選択は変わるため、最新の情報を専門医と共に分かりやすく伝えるセミナーを全国で展開しています。